バカラの砲火6

結局、両者は盆地で会戦となった。
最初の数日は世界でも屈指の名将、レイ・コーの天下無双の働きやディスの天衣無縫と称しても良い熟練の陣形から繰り広げられる波状攻撃なども兵力差に相まってバカラ有利に進められていた。実質の総司令である美沙は満足しきりで、あと、一週間もすればローレは落ちるのでは無いかと楽観的な見通しを立てていた。しかし、それは長くは続かないこととなる。突然、東部戦線を守る、ケルビム率いる第五軍が側面から襲われたのだ。ローレの兵にではない。スルードの兵に。もとが三万と少ないケルビムの第五軍は浮き足立ち潰走し、東部の戦線に穴を開けることとなる。この機に乗じたローレが東部戦線の穴を利用しバカラの背後に回ろうとする。総司令部は慌てふためいた。

「ちょっと!どうなってるの!?」
美沙がヒステリックな叫びをあげる。

「ですから、スルードゲルミル軍、十万が側面から鶴翼の陣を敷きながらこちらに向かっています」
「そんなことはわかってるわよ!!」

美沙は伝令として駆けて来た若い士官を怒鳴った。この時点で美沙は司令官としての禁忌を2つ犯している。敵に対する過小評価と冷静を失うことだ。

「何か手を打たないと我々は包囲され、壊滅してしまいます」
これは一将校の声
「それも分かってる!!」
美沙はせわせわと司令室を歩き回った。そして言い放つ。
「本国からもっと兵を出す!伝令は本国まで馬を飛ばし、兵を連れて来なさい!それまでは西部戦線の第二軍団を東部に移し、現在の前線を支えること!」
「しかし、それでは戦前条約に違反します」

戦前条約…いわえる、犠牲者をだらだらと増やさないために戦争行為が始まった第一戦から兵員の補給はせずに闘うということである。解り易い言い方をすれば再守備禁止と言われるものだ。それにバカラの兵であって勝手に連れて来ても良いものでは無いはずだ。

「構わないわ!とにかくいきなさい!」
一士官の身で条約を知っていてもこれ以上逆らうのは賢明では無い。
その一士官は少々、おどおどしながらも司令室を出て行った。
しかし、この一士官は本国へ馬を飛ばさずに、アルのテントに向かった…

【2007/09/30 18:34】 ラグナ | TRACKBACK(0) | COMMENT(0) top>>

バカラの砲火5

最初の戦地と予想されたのはローレライ要塞からおよそ25キロ離れた、大きな盆地だった。盆地を見下ろすように東に山々がそびえており、その山に見下ろされるように北からバカラ、南からローレライの軍勢が要塞に迫られる前に返り討ちにせんと軍を進めていた。盆地のような広大な平坦な土地となると主戦力の激突は避けられない。それはお互い予期していたことであった。しかるべき、バカラ対ローレの初戦はいきなり会戦という形で火蓋を切ろうとしていた。兵法上では会戦形式で戦闘が行なわれる場合、数が多い方が有利であり、相手がそのことを承知していないとは思えない。バカラ25万に対しローレが20万。兵数で劣勢であるローレが要塞に籠り相手の消耗を狙う作戦に出ない理由が見出せない。アルには一つの予感があり、もし現実のものだとすればそれは由々しきことであった。傭兵国家、スルードゲルミルの存在である。アルは悩んだ末、その重い腰をあげることとした。

「美沙ちゃん、大体、わかってるとは思うけど劣勢の相手がこのままいけば会戦にもなるにも関わらず、進んでくる訳でおいらとしてはスルードゲルミルからの援軍が近いうちにローレに加わるんじゃないかと思うのだけれど?だとしたら、それなりの対策もしないといけないし…」

美沙の前に姿を現したアルはこう言い出した。総司令官ではあるがアルは半ば形式的なものである。もともとは美沙が欲した戦争であり、アルとしては軍配まで振る気が起きないのであって、実際の総司令としての役割は張本人である美沙が果たしている。

「それは大丈夫ですよ」

いやに確信に満ちた声にアルが眉をひそめる

「どうしてそう言い切れるんだい」
「バカラの勇敢な兵と名将たちを相手にスルードは兵を送って無駄死になんかさせたくないでしょうから」

多分、社交辞令的な要素も含んでいたのかもしれない。しかし、根拠としての理論性が皆無であり、戦争における現実認識能力に足りないこの言葉を自信を持って言い切る目の前の少女にアルはただただ、首を傾げるしか無かった。

【2007/09/29 20:26】 ラグナ | TRACKBACK(0) | COMMENT(2) top>>

バカラの砲火4

戦争準備が始まった。
金融街という資金的バックがあるバカラの戦争準備は盛大を極め、美沙を驚かせた。
戦争準備に先だって発表された戦力配置は以下の通りである。

総司令 アルスター

第一軍 兵力六万 司令ディス

第二軍 兵力六万 司令レイ・コー

第三軍 兵力五万 司令犬村

第四軍 兵力五万 司令沙羅

第五軍 兵力三万 司令ケルビム

第五軍は兵力が三万と少ないが司令が客将のケルビムであることを考えれば
妥当なものである。かくして、計二十五万の兵は敵地ローレライを目指して旅立った。



なんで短いのかって?いや、意外な結果になってどうしよもなくなったから早々に打ち切れるように頑張ってるだけ(ぉぃ//もとが長い構想なので八〜十話以内に収めれば上出来だと思われる==;

【2007/09/26 18:13】 ラグナ | TRACKBACK(0) | COMMENT(0) top>>

バカラの砲火3

「一体、どれぐらいの準備が整ってますか?」
美沙は身を乗り出した。それとは対称的にどっしりと椅子に構えているのはアルだ。
「この戦争に使える兵力は全部で二十五万ってところかな?」
「兵站面では一体、どれほど?」
「工兵を持ってして簡易線路を引いての輸送を考えてる」
「工兵…ですか?」
聞き慣れぬ兵種に少し戸惑いを美沙は感じた。
世界では歩兵、弓兵と騎兵の三兵種が基本であり、補給にしても騎兵か歩兵が車両を
引くなり押すなりし目的地に運ぶものなのである。美沙の質問意図は一体、後方での
輸送作業にどれほどの兵を割くのかとを意味したものであって決して、工兵などと
新兵種といっても過言ではないようなものを想定していた訳ではない。さらに言えば
戦場まで線路を引くなどというような奇抜なアイデアも予想していなかった。
「まぁ、聞き慣れないだろうけど、これの凄さはこれから分かっていくことになるよ」
美沙の戸惑いを感じたのかアルが笑いながら言った。
その言葉に半ば戸惑いを残しながらも美沙は頷いた。
「まっ、ともかく、そっちはそっちで私怨を晴らしてくれれば良いよ。
こっちはこっちで戦争による景気拡大と戦争取得地があればそれで良いんだからね」
これは本音だった。アルとしては美沙がどのような私怨をもっていようと関係ない
いや、そもそも興味が無かった。更に言えば上の2つの理由に面白そうだからという
およそ不届きな理由もつくのだが…
「はい、わかってます」
それは分かっていた。むしろ当然だとも美沙は思っていた。
それなりの理由が無ければ他人の私怨を晴らす戦争なんかに手は貸しはしないだろう。
「じゃあ、早速、戦争準備をさせるから。機を見てとっとと布告しちゃってね」
美沙は頷いた。
そうして、バカラは戦争に向けて動き始めた…

【2007/09/23 18:09】 ラグナ | TRACKBACK(0) | COMMENT(0) top>>

バカラの砲火2

「リムさん今日はお休みですか?」
浅倉と名乗る少女が背中越しに聞いてくる。
何かが引っ掛かる。引っ掛かったが肩越しに答えた。
「ええ、ちょっとした気分転換に有休を取らせてもらってます」
「えっと…すいません…折角のお休みなのに」
「いえいえ、午後からはどうせ職場に顔を出してたでしょうし」
笑って答える。これは事実だった。いざ、休みを取ると暇なものなのだ。
いつの間にか二人はカジノ街を歩んでいた。
不眠の街でもある、このエリアは一番、奥にあるカジノを中心として、酒場、風俗が
立ち並ぶエリアである。今はまだ朝とあって人通りはまばらだが
気をつけないと二日酔いで倒れてるならず者に足を取られる。
中にはそのまま死んでたりする奴もいるから尚更だ。
「凄い街並ですね」
美沙が仲良く道ばたで寝ている酔っぱらいを跨ぎながら呟く
「慣れれば大したことないよ。ここに来るのは始めて?」
実際には慣れるのでは無い、諦めるのだが
「えぇ、始めてです」
「まぁ、じゃあ仕方無いかな」
リムはカジノ正門の手前で曲がり裏手に回った。辛うじて青色に塗装されていたと
分かるドアの前に立つとパネルにある番号を押して解錠した。
そして美沙の方に振り返ると微笑んだ
「カジノバカラへようこそ」
二人はドアをくぐり、階段をあがった。そこから10メートルほど進んだところに
目的の部屋はあった。“支配人室”軽くノックしてから返事を待たずドアを開ける。
「アル、お客さんだよ」
「ん〜?」
珍しくちゃんと書類に打ち込んでいたアルが顔をあげる。
美沙の姿を確認すると納得したような表情を作った
「あぁ、ありがと。今日は有休じゃなかったけ?」
「まぁね。午後からは出るから残りの半日は明日にでも使わせてもらうよ」
「わかった。とりあえずご苦労様」
そういうとアルは美沙を招いた。
役目を終えたリムは退室しようとすると美沙が慌てて言った
「リムさん、ありがとうございました」
やはり何かひっかかる。とりあえず振り向かず手だけあげて返答の意を示すと退室した
ドアを閉める。そして、はっとした。
「リムさん、今日は…」「リムさん、ありがとう…」
そうだ、少女は俺の名前を知っていた。名乗った覚えは無い…既に閉ざされた
支配人室のドアを再び見つめる。そして呟いた。

「浅倉美沙…一体、何者だ…?」

【2007/09/22 18:08】 ラグナ | TRACKBACK(0) | COMMENT(0) top>>